当社の主たるコンサルティング分野は製造業でのデジタル技術の活用支援です。
デジタルトランスフォーメーション(DX)というキーワードが普及するにつれ、相談が増えてきていますが、DXとは、単に各社の課題解決に適したデジタル技術の活用を提案することではありません。少し前まではデジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術で各社のビジネスモデルを変革する」ことと言われていましたが、2021年のDXレポート2では「素早く変革し続ける能力を身につけること、その中ではITシステムのみならず企業文化(固定概念)・風土を変革する」ことと再定義されました。どちらの定義も、今後の製造業のあり方にとって検討すべき重要なテーマですが、取り組みにあたっては相当な覚悟が必要です。自ら感じている危機感から覚悟を決められる経営者もいらっしゃいますが、多くはお手本がないと何も考えられない方も少なくありません。
とりわけ、金属加工を生業としている企業は、金属加工業自体が高度経済成長の中で生まれた業態なので、未来像は非常に描き難い分野です。未来の金属加工業の姿を示していると思われるいくつかのパターンとお手本になる企業を、私がたまたま知り得た範囲にはなりますが列挙してみます。
(1) エンジニアリング分野への進出
最もポピュラーな取り組みとしては、生産のサプライチェーンの中で、生産の上流工程へ対応範囲を広げる方法です。依頼する会社は専門性が高い設計エンジニアを育成することなく商品企画に注力できる利点があり、製造会社は製品性能に最適な製造プロセスを選択して無理なくローコスト・短納期を実現するWin-Winの関係です。すでに設計専門の会社もあったりしますので、製造の会社と設計の会社が連携・協力する方法で取り組んでいる企業は非常に多くありますし、製造から出発して設計会社に変身した会社(HILTOPなど)もあります。
従来からあるモデルではありますが、加工だけでなく組立、物流、保守まで生産に関する全てを垂直統合する請負形態もあります。鴻海などEMSで巨大化した企業も存在しますが、このような会社は、生産に関する全ての専門技術を高める努力をし続けている形態です。
カバー範囲の組み合わせは色々なパターンがありえますから、自社の取引関係の中での立ち位置や、自社はこうありたいというビジョンに基づき目標を定めて取り組みを開始することができますので、多くの企業にお勧めできるパターンです。
(2) 加工を科学的に極める
加工をアウトソーシングするということは、単に高度な加工装置があるだけなら、似たような企業はたくさんあるため手間賃仕事となり利益を出すことはかなり難しくなります。しかし、加工自体の知識が発注企業よりも優れており、加工装置が存在するだけではできない加工ができる企業はオンリーワンになれます。そのような企業は、ある種の加工はなぜこの価格になるのか、品質を安定させるためにはどういうことが考えられるのか、科学的なデータ分析により示すことができ、顧客と対等に交渉ができるだけでなく、顧客と製品性能をより高めることへも貢献できる企業です。よく経験がある職人さんがいることと混同されますが、違いは次のパターンで取り上げます。加工の王道を極めたい、世界と戦いたい企業向けの取り組み手段だと思います。
昨今、IoTを介したビックデータ解析が話題になっていますが、大企業の取り組み事例は多いですが、中小企業で取り組んでいる企業もあります。先だって経済産業省のDXセレクション2022に選ばれた株式会社山元金属製作所は、その代表的な事例です。また、金属加工ではありませんが、単に塗装するだけでなく塗料も開発し、塗装のIoTも開発してしまう企業も紹介しておきます。
株式会社山本金属製作所 https://www.youtube.com/watch?v=vZEdxtZNL34
久保井塗装株式会社 https://www.kuboitosou.co.jp/
(3) 競争力がある特定製品の産業クラスターメンバーとなる
加工単体での付加価値を高めることは非常に難しいですが、世界的に競争力がある製品を製造する企業グループの一員となり、製造プロセスを磨き上げていく方法もあります。これは従来の自動車産業では取られていた形態ですが、自動車産業は裾野が広く、関係性が弱いままでした。一方、特定分野で世界トップを取っている製品は日本には多くあります。このような製品では特殊な部品が必要なケースがあり、汎用的な加工会社よりは、開発情報もデジタルで連携して専用化を洗練させることが適しているケースもあります。
どのような企業でも取り組める方法ではありませんが、チャンスがある会社に取っては選択肢の1つになり得えます。
(4) アーティストとして活動する
中小企業の多くは、「職人さん」と呼ばれる熟練技術者に支えられていますが、現状のビジネスモデルでは、職人さんの仕事の価値は現在の取引価格にすでに織り込まれており、価格交渉の余地がなくなってしまっています。しかし、「職人さん」の高齢化が進み技術伝承もままならない状況では、当面の対策として定年延長などの対策は取っていますが、今後は「職人さん」の技術に頼った事業は成り立たなくなると予想されます。
そういう意味で、本当に高度な加工技術を持っている人材は、他の加工方法では実現できないところにだけ活用される非常に効果な技術としてプロヂュースする企業も出てくるでしょう。未来の「職人」は当然、デジタル技術も駆使できる人も含まれますが、オンリーワン「芸術家」に近い存在としてビジネスモデルを考えることも一考です。ある会社では、実際にそのような技術者を「アーティスト」と呼んで、専用の加工部屋を用意しているケースも有るようです。
2022年5月1日
ケイデンスコンサルティング合同会社
代表社員 川下敬之
続編
https://www.cadence-consulting.jp/2023/12/30/%E9%87%91%E5%B1%9E%E5%8A%A0%E5%B7%A5%E6%A5%AD%E3%81%AE%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-dx-%E3%81%9D%E3%81%AE%EF%BC%92/