5Sと自動化

昨今の人手不足問題の深刻化により、中小製造業において自動化に対する関心は高まっていますが、実際に自動化を推進しようとする際には、適切な人材の不足やその他の課題に直面することが珍しくありません。

このような状況に対し、中小製造業にはまず5Sから始めることを勧めています。

5Sは多くの中小製造業が経験している活動であり、取り組みやすい方法です。しかしまがら、自動化を目指すために行う5Sとは、単なる整理整頓の手法ではなく、自動化に適した作業環境の構築、及び自動化技術導入の準備段階としての取り組みです。

 

自動化を目指す5S活動と従来の5Sの取り組み方の違い

 

  •  5Sの最後の「S」は「躾(しつけ)」ではなく、「仕組化」として取り組む

 自動化を目指す5Sでは、最後の「S」が従来の「躾」ではなく、「仕組化」であると定義して取り組みます。つまり、5S活動による作業環境の変革活動の中心が、人に依存しない仕組みをいかに多く構築できるかに焦点を当てることであることを意味します。

  • 業務の変更権限がある人が中心となり変革活動として取り組む

 自動化を進めるには、従業員個々の裁量権を超える決断が必要となることが多く、そのためには予算執行権限や4MManMachineMaterialMethod)変更、レイアウト変更などの責任を負うことができる人が中心となって推進する必要があります。

  •  短期間(週単位)で試行と改善を繰り返しながら取り組む

 自動化のための5S活動では、スピード感を持って仕組化のアイデアを試行することが重要です。多少の失敗を恐れずに迅速に行動し、効果を確認しつつ、問題点を把握した上で改善を図ることが大切です。実施する工程を限定することで、影響を最小限に抑えつつ、自動化への取り組みを集中的に進めることが可能となります。

 

自動化を目指す5S活動の実際

 

  • 徹底した整理・整頓活動による生産活動の問題点の把握

 自動化された工程では、全てのアイテムの位置や動きが厳密に定義されている必要があります。これは、人間が小さな変化にも柔軟に対応可能である状況とは異なります。徹底的な整理・整頓を行うことで、必要な物品の配置や動きを事前に評価し、生産活動における根本的な課題を明らかにします。さらに、治具や工具の改良により、人の介入を最小限に抑えたシンプルな作業手順を考案することも可能になります。これは、適切な自動化システムの設計において重要な役割を果たします。

 

  • 仕組化による整理・整頓維持

 徹底した整理・整頓を持続させることは、時に人にとって重荷になる可能性があります。この課題に対処するために、部品の供給方法、完成品の排出方法、工具の提供や保管方法などをからくり改善や簡易な専用装置を導入して仕組化することで改善を図り、人の負担を減らし続けられる整理・整頓状態を実現します。これは、自動化における初期段階であり、自動化推進の基盤となります。

 

  • 工場全体的視点で工程間の関係性の調整

中小製造業では、多品種少量生産が一般的で、日々の担当業務が変わることもあり、結果として各工程の役割や定義が不明確になることがよくあります。さらに、限られたスペースの中で、本来の目的以外での空間利用、例えば仕掛品の一時保管場所として使用することがあります。自動化を進めるためには、このような問題を予め把握し、対処する必要があります。従って、単に物を整理・整頓するだけではなく、必要に応じてレイアウトを柔軟に変更できるような段取り変更の仕組みの導入などの準備が必要です。そのため、工場全体を俯瞰できる知識を持つ人物が主導権を持って取り組む必要があります。

 

  • 清掃・清潔活動を通して、生産能力向上の波及効果を把握し解決する

生産能力の向上は、必然的に工場内での物流量の増加をもたらします。これに伴い、これまであまり重視されなかった搬送作業や片付け作業が新たな課題として表れることがあります。生産能力を高めたものの、物流が滞ってしまうと、工場全体の成果が損なわれる可能性があります。自動化を検討する際には、主に生産活動が焦点となりがちですが、搬送方法の見直し、仕掛品の管理、人員配置、廃棄物の処理方法など、物の流れ全体を再評価することが求められます。徹底的な整理・整頓が生産性向上に直結するため、さらに清掃・清潔活動を積極的に行い、工場内の物流の不整合を迅速に解消することが重要です。また、IoT技術を利用して工場内の状態をリアルタイムで把握し、問題の早期発見と対応を可能にすることも、効果的な対策の一つです。

 

  • 清掃・清潔活動を通して、生産活動で発生する異常を把握する感性を磨く

自動化された工程が安定して動作することはその価値の根幹です。にもかかわらず、生産過程には時折予期せぬ異常が発生し、生産が一時的に停止することがあります。人間はこのような小さな異常に対しても臨機応変に対応する能力を持っていますが、その結果、貴重な知見が見落とされることがあります。自動化システムの安定性を確保するためには、事前にできるだけ異常を特定し、適切な対処法を検討しておくことが重要です。そのために、清掃・清潔活動を利用して、生産現場の様々な変化に対して敏感になり、異常を迅速に検知できる能力を養うことが必要です。さらに、センサーなどの技術導入も進め、人間の感知しづらい異常も捉えられる技術を確立することは、将来の自動化システムの信頼性を高めることにもつながります。

 

2024年3月31

ケイデンスコンサルティング合同会社 

 

代表社員 川下敬之